9月度最優秀ハイレゾ音源大賞作品

01_rbe

『ArtScience (24bit/96kHz)』
Robert Glasper Experiment

配信日

2016年9月16日

配信ページ

http://mora.jp/package/43000006/00602547970572/

坂本龍一

%e5%9d%82%e6%9c%ac%e9%be%8d%e4%b8%80%e3%82%a2%e3%83%bc%e5%86%99 Photograph by Chad Kamenshine

もとの音楽がよくなければいくら技術がよくても人を惹きつけることはできない

──このたびOTOTOY、mora、e-onkyoとHD-Music.というハイレゾ音源がダウンロードできる配信サイト4社でハイレゾ音源大賞を立ち上げました。この大賞は、各社が毎月一番良かったと思うハイレゾの音源をノミネートし、各月のセレクターが、その中から一番良かった作品を各月の最優秀ハイレゾ音源として選出する企画です。

2016年9月度各サイト推薦作品

lindenbaum_0804

『リンデンバウムより (24bit/96kHz)』
井筒香奈江

長年にわたり非常に音に拘った作品制作を続け、オーディオファン、音楽ファンから高い評価を受ける、井筒香奈江の今月発売の最新作。

>> 続きを読む

01_rbe

『ArtScience (24bit/96kHz)』
Robert Glasper Experiment

ジャズピアニスト・レコーディングプロデューサー ロバート・グラスパーが率いる、ロバート・グラスパー・エクスペリメント約3年ぶりのニュー・アルバム。

>> 続きを読む

04_h_z

『PIANO CRAZE“EXCITING FLIGHT”(24bit/96kHz)』
H ZETTRIO

H ZETTRIOの待望の3rdアルバム『PIANO CRAZE』! 2016年2月から6月まで、ツアーを行いながら生まれた曲たちを次々とハイレゾでレコーディング。

>> 続きを読む

【配信ページ】
http://ototoy.jp/_/default/p/65678

03_walkure

『TVアニメーション「マクロスΔ」ボーカルアルバム2 Walkure Trap! (24bit/48kHz)』
ワルキューレ

ハイレゾリスナーの人気も高いアニメ音楽から、今話題のアニメ『マクロスΔ』の劇中音楽ユニット“ワルキューレ”による2ndアルバム『Walkure Trap!』をチョイス。

>> 続きを読む

【配信ページ】
http://hd-music.info/album.cgi/12026

──この4作品の中から坂本龍一さんが最優秀賞に選出した作品を教えていただいてもよろしいでしょうか?

坂本龍一 : Robert Glasper Experiment『ArtScience』ですね。いつも口がすっぱくなるくらい言ってますけど、ハイレゾといってもやっぱり音楽ありきなので、その音楽の内容を別にして純粋にハイレゾかどうかっていう判断は難しいと思うんです。

──そうですね。

坂本龍一 : やはりいい音楽があって、いい録音があって、それをどうやってよりよく再生するかってことだと思うんで、もとの音楽がよくなければいくら技術がよくても人を惹きつけることはできない。だからなかなかハイレゾリューションというテクノロジーと、音楽の中身を峻別して聴くっていうのは、一般の人にはあんまり意味がないと思うんです。

──はい。

坂本龍一 : 僕自身もこの4作品を聴いてみて音楽的に優れているものにどうしても耳がいくし、その上でやはりその音楽をうまく再生できているのかは音楽の次に気になってくるんですが、4つを聴き比べてみて、圧倒的に『ArtScience』が優れているなと思いました。

──ありがとうございます。Robert Glasperと交流があったりしますか?

坂本龍一 : いやないんですけれども、もちろん注目はしています。

──そうなんですね! 僕も初めてフジロックフェスティバルで見させてもらって、本当にすばらしいなって。

坂本龍一 : 新世代のジャズ・ミュージシャンがたくさん出てきていて、僕らと同じようにPOPSやロックなどいろいろなものを吸収して今までにないジャズをやっている。もちろんジャズの部分も物凄く能力が高いんだけども、そこに安住しないで次々と新しいことをやろうとしているのはすばらしいと思います。

──このあたりのシーンは注目していらっしゃいますか?

坂本龍一 : そうですね。ジャズを高校とか大学の若いころは好きで聴いていたんです。まだコルトレーンが生きている頃ですね。それからジャズというジャンルが新しいものを生み出されなくなって長かったと思うんですけど、ここにきてまた面白いジャズ、まあジャズって狭くジャンル分けする意味はあんまりないのかもしれないですけど、ジャズ畑から面白い人がたくさん出てきて、新しい、クリエイティブなエネルギーが感じられてとても刺激を受けてます。

アナログに戻しちゃうほうがいいのかなって

──ハイレゾに話しを戻しますが、ハイレゾで録音してリリースすることを意識的に行っていますか?

坂本龍一 : DSDで、マルチで何十チャンネルも録音して、それをネイティブで編集するっていう環境がまだ整っていませんので、まあそれがいつ来るのかなって思って下準備はしてるんですけどね。ずっと長く使っていたデジタルの卓を2年ぐらい前にアナログに変えたので、今はオール・アナログですね。またYMOでも使っていたAPI500シリーズなんかも買い揃えていたり、いろいろ外側の準備はしているんですけども、やっぱりマルチ・チャンネルを録音して編集っていう環境が早くきてほしいなという…… まあ今は待っているところですね。

──DSDを意欲的に使っていきたい?

坂本龍一 : やはりDSDのほうがもちろんクオリティはいいと思いますけども、当然44.1KHzから48KHz、192KHzっていう風にサンプリングレートもどんどんあがっていくなかで、録音にしても、ライヴにしてもコンピュータの事故は起こしたくないので、DSDに積極的でありつつも、安全性も考えて、良いバランスでやってきましたし、いきたいですね。

──なるほど。普段は32bitで録音されていますか?

坂本龍一 : 32bitだったり、24bitだったり、そのときの環境に合わせてですね。

──じゃあ特に、DSDが好きだとかそういうわけではない?

坂本龍一 : いやできたら全部DSDにしちゃいたいくらいなんですけど、ただまだその環境ではない。もう一ついえば、その先っていうと、もう一度アナログに戻しちゃうほうがいいのかなって最近思うんです。つまり録音のやり方もアナログのテープに戻しちゃう。デジタルの編集に慣れてしまったので難しいと思いますけど、音をデジタルにするってことは、そこで一回空気の振動が数値に置き換えられちゃうわけなんで、もちろんアナログテープだとしても純粋な空気の振動はなく、電気の信号に変えられてしまうのですけど、まだ現実の空気の振動に近いと感じます。

──なるほど。

坂本龍一 : 本当にデジタルでいいのか、もちろんクオリティーは上がってきてますけどDSDでさえも、デジタル信号に変換するということに変わりないので、それでいいのかなと。便利さにかまけてデジタルで長くやってきましたけど、2、3年前にオノセイゲンさんと話していてふと出てきたアイデアは、結局音っていうのは空気の分子の状態の変化ですから、空気の分子の状態をすべて記録してデータ化して、それを再現する方法があれば完全にライヴでなっている音を保存し、再現することは出来るので、これが究極の記録の仕方かなと思うんですね。

──なるほど。

坂本龍一 : 音の音質って言うのかな、音の記録って言うよりかは、空気の振動を録音するっていうか、そっちのほうがよりライヴに近いのかなっていう風に思います。


人間の音楽の聴き方はどんどんクオリティーの悪いほうに普及している

──今や、ダウンロード以外にもストリーミング・サービスが登場したり、日本ではCDがまだ買われていますし、世界的にもアナログがはやっていたり、リスナーがさまざまな形で音楽を聴くことができる中で、そのような状況をどのように考えていますか?

坂本龍一 : 20年少し前にインターネットが普及してきたときに、僕はすぐCDは無くなると思って準備してきたし、人にも、CD屋はもう無くなりますからねって言ってたことがあるんですけど、アメリカはまあ無くなりましたけど、日本ではまだ残っています。また皮肉なことにインターネットが普及しましたけど、世界中で最も多くの聴かれ方は、スマートフォン、あるいはiPodのようなものでMP3。それはダウンロードなのかストリーミングなのかはわからないけれど、MP3はCDの16bit/44.1KHzに比べてもはるかにクオリティーが悪いわけで、インターネットの普及のせいでCDは無くなるよって言ったのは、当然そのクオリティーがもっとよくなるだろうって言うことを前提で言ってたんですが、それに反比例して人間の音楽の聴き方はどんどんクオリティーの悪いほうに普及しているって言うのは皮肉だなと思うんです。

──そうですね。

坂本龍一 : そしてハイレゾを別にすれば、一般の方がダウンロードなどよりも少しいいクオリティーの音楽を買おうとすればCDを買わなくてはいけないという…… インターネットが普及して20年以上立つのに、まだCDが一般の方からすれば最高のクオリティーのメディアであるという現状は、本当に嘆かわしいと思っています。そういう意味でもハイレゾがもっと普及するべきですね。

──ストリーミング・サービスは利用されていますか?

坂本龍一 : はい、してます。だいたい大手のものは利用していますよ。

──ストリーミング・サービスについては、ミュージシャンとして、もしくはリスナーとしてはどのように考えていますか?

坂本龍一 : まずビジネスモデルとしては未来のあるものには思えないです。というのは楽曲は日に日に増えていきますよね。世界的に1日に何千曲も増えているかもしれない。でもストリーミング・サービスを運営している会社は、楽曲が増えて手間もかかる割りに、月額の料金をどんどんあげていけるかって言われると出来ないですよね。だから手間は増えるのに収入は減っていくっていうサービスなんですよ。もちろんコマーシャルを取れば別ですけど、まあ僕はあんまり先が長いとは思ってないですね。だけど利用するユーザー側からいえば、やっぱりとても便利なサービスですよ。

──そうですね(笑)。

坂本龍一 : commmonsでschola(※)っていうシリーズをやってるんです。CDと本で、ジャズ、バッハ、フランス音楽とか現代音楽とか、いろんな特集を決めて毎回出していくんですけど、たとえばアラブ音楽だったらそこまで知識が無いわけですから、検索するわけですよね。現代音楽特集をやった時も、多分世界中で1000人も聴かないだろうなっていう非常にマニアックな音楽も選出する。つまりspotifyなんかがないと無理なんです。ニューヨークのマンハッタンから最後のCD屋がなくなったのもあって、とてもじゃないけどCDで探すのは不可能なので、そういう意味でもやっぱり非常に便利です。

※schola(コモンズ・スコラ)は、坂本龍一の監修によるユニークな「音楽全集」。クラシック/非クラシックを問わず、世界中の様々な音楽をテーマに取り上げ、各界の専門家とともに厳選した楽曲を収録したCDと、重厚な解説ブックレットが一体化しています。

──なるほど(笑)。

坂本龍一 : 今度はアーティストの立場から言うと、1曲聴いていただいても、何銭とかでしょ? 物凄く薄っぺらいわけですよね。まあビヨンセみたいに何億回も聴かれるようなものであればそれなりの収入になるんでしょうが、まあ普通のミュージシャンとしては、ダウンロードなんかよりも収入はもっと悪くなりますよね。だから全体で見れば底下げとなってしまう。音楽を作る環境としてはより悪くなるということになります。

──なるほど。今までの話しを総称すると、ハイレゾにとても期待していただいてますし、ダウンロードサービスももっと普及していけばいいと思っていると考えて宜しいでしょうか?

坂本龍一 : もちろんですよ。現実にCD屋もなくなっちゃったことだし、新しい音楽を聴くとしたらダウンロードサービスかストリーミング・サービスしかない。でもカセットもアナログも魅力があるから、家には増えてきちゃっているけどね。

毎日ネット越しに戦っている感じ

──映画「怒り」が公開されとても話題ですが、録音はどのようなかたちで行いましたか?

坂本龍一 : 基本的には24bit96kHzで録音しました。時期は、今年の2月、3月。

──2CELLOSを選出したのは監督李相日氏ですか? それとも坂本龍一さんですか?

坂本龍一 : 監督の方から彼らを使えないかということで、サウンドを聴かせてもらって試してみようって。1日目にレコーディングして、ピッチがあんまりよくなかったんでやり直してもらって、2日目はとてもよくなってました。

──監督李相日氏とは、どのようにしてやりとりを?

坂本龍一 : スカイプ・ミーティングも何度かしましたし、監督と直接Emailで60通くらいはやり取りしましたね。シーン毎の曲を作ってすぐ送って、監督からすぐコメントが届いて、それに対して僕もコメントを添えて。毎日ネット越しに戦っている感じでした。

──楽曲の世界観は、どちらがイニシアチブを取っていたのでしょうか?

坂本龍一 : もちろん僕ですけど、監督は彼なので、やはり彼が望むもの、何を望んでいるのかってものを図りながら作品にしていきました。それはどんな映画でも一緒ですけど、そこが一番難しいところですね。自分がいいと思っても、監督はわからないこともあるし、こっちが誤解してる場合もあるし、やっぱり音楽って言うのは言葉になりにくいものなので、そこをどのように想像するかって言うのが一番難しいですよね。

──僕の周りの『怒り』を見た人の多くが、映像やストーリーだけでなく、楽曲が素晴らしいと言っています。

坂本龍一 : それはうれしいです。ありがとうございます。

──今日は、短い時間でしたがお考えを訊かせていただき本当にありがとうございました。

■今回、坂本龍一氏が選出に使用したリスング環境■
DACはKORGのDS-DAC-100m、音源はいつも使用しているMacBook ProにてAudioGateで再生。SONY、MDR-Z7と、SennheizerのHD800で視聴したとのこと。

KORG DS-DAC-100m
http://www.korg.co.jp/Product/Audio/DS-DAC-100/da-dac-100m.html

KORG AndioGate
http://www.korg.com/jp/products/audio/audiogate4/

Sony MDR-Z7
http://www.sony.jp/headphone/products/MDR-Z7/

Sennheizer HD800
http://www.sennheiser.co.jp/sen.user.Item/id/3.html

プロフィール

坂本龍一 / Ryuichi Sakamoto
1952年東京生まれ。1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年『YMO』を結成。散開後も多方面で活躍。『戦場のメリークリスマス』で英国アカデミー賞を、『ラストエンペラー』の音楽ではアカデミーオリジナル音楽作曲賞、グラミー賞他を受賞。常に革新的なサウンドを追求する姿勢は世界的評価を得ており、またアート界への越境も積極的に行っている。2014年7月、中咽頭癌の罹患を発表したが、1年に渡る治療と療養を経て2015年、山田洋次監督作品「母と暮せば」とアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作品「レヴェナント:蘇えりし者」の音楽制作で復帰を果たした。『東北ユースオーケストラ』( http://tohoku-youth-orchestra.org/ ) の音楽監督として東日本大震災の被災三県(岩手県・宮城県・福島県)出身の子どもたちと音楽活動も続けている。
http://www.sitesakamoto.com/