11月度最優秀ハイレゾ音源大賞作品

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2016年11月9日

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http://ototoy.jp/_/default/p/67556

小野島大(音楽評論家)

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これまで、最優秀ハイレゾ音源大賞作品の選出&総評はセレクターへのインタヴューにて行ってきましたが、今月のセレクターは音楽評論家の小野島大さん。今回は書き原稿にてお送りいたします。

2016年11月度各サイト推薦作品

KOKIAは、変幻自在なその歌声でヨーロッパやアジアなど世界でも高い評価を得ているミュージシャン。ビクタースタジオが全面的にバックアップしたハイレベルなハイレゾ作品。

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【配信ページ】
HD-MUSIC独占音源のため、HD-MUSICサーヴィス停止に伴い現在配信停止中

たっぷりと時間かけて作り上げた録音芸術の粋である

選・文 : 小野島大

今回「ハイレゾ音源大賞」の選考を仰せつかり、各サイトから推薦された音源を繰り返し聴くうち、音質をチェックするというより、音楽そのものにいつのまにかのめり込んでしまっていることに気づいた。過去の選考で坂本龍一氏や大山卓也氏が言っているように、音質や録音の善し悪しは音楽の内容と切り離すことはできない。いやできなくはないが、意味のない行為である。まずは良い曲、良い歌、良い演奏があり、それを生かし、作り手の意図を最大限に伝えるために「良い音」で録り音源に収める。その音源に入っている情報を最大限引き出すために、聴取環境を整え、相応しいオーディオ機器を揃える。ハイレゾリューション音源のメリットは、なるべく容量の大きな器を使えば、情報をたくさん収められるということだ。音楽を楽しみ、そこに収められたアーティストの世界観を味わうための、いわば道具としてハイレゾリューションの技術があり、オーディオ機器などのハードがある。一番大事なのはそこで、テクノロジーやハードを聴くための道具として音楽があるのではない、ということだ。

ボブ・ディランの『The Real Royal Albert Hall 1966 Concert』。ちょうどアコースティックからエレクトリックへ、フォークからロックへという大胆な変化の途中にあった若き日のディランのライヴ音源だ。だいぶ前だが、某オーディオ誌で、同時期のディランのライヴ音源を、ラジカセから総額数百万円のハイエンド・オーディオまで価格帯別の機器で聴き比べるという企画をやったら、チープなラジカセが一番よく聞こえて驚いたことがある。そこで鳴っていたディランは、ちんまりと座って鑑賞するような音楽ではなかった。今すぐ君もギターを手に取り、声を張り上げて歌いたまえ、と聴き手を挑発していた。四畳半一間のアパートでひとりこれを聴いた若者が、自分も何かをやらなきゃと奮い立つ。ただ聴いただけでは完結しない、聴き手の行動を促す「体験」としての音楽。それを伝えるのに相応しい機器がラジカセだったのだ。
2016年の今、当時のディランの倍以上の年になった私が、24bit/96kHzのハイレゾにコンバートされた音源を、それなりのオーディオ機器で聴く。もちろんかつて彼に夢中になりギターを手に取った若者のように挑発されはしない。自然とその聴取体験は「体験」というより「鑑賞」に近いものになる。50年前の録音とは思えないほどクリアな音だ。ディランの息づかい、息を潜めて見守る観客の緊張感まで伝わってくるような生々しい臨場感。この2年前に録音されたサム・クックの『ライヴ・アット・コパ』のSACDを聴いた時も思ったが、この時代のアナログ・レコーディングには現在のデジタル技術でも拾いきれないような豊かな情報量が詰まっている。それがハイレゾという新しい容れ物によって現代に蘇ったのだ。アルバムの後半、エレキ・バンド・セットになると音が割れ歪み気味にも聞こえるが、だからこそディランの何ものをも恐れぬ気迫とエネルギーに圧倒される。音楽の偉大な力を感じる素晴らしい音源だ。

ジェフ・ベックの『ワイアード』は、高校生の時に初めて聴いてから、自分のリスナー人生でもっとも回数聴いたアルバムのひとつ。その大半は既にジャケもボロボロになったアナログ盤だ。アナログ盤独特のチリチリノイズとともに記憶するイメージが、CD時代はうまく繋がらなかった。音全体がこじんまりまとまったようで、CDではついにアナログ時代のような興奮は味わえなかった。ところが24/96のハイレゾにコンバートされた音源では、このアルバムの完成度の高さと強靭なライヴ・バンド・サウンドに、改めて圧倒される。CDでは収めきれなかったスタジオの空気感が伝わってくるのだ。なるほどベックたちはスタジオでこの音を聴きながらアルバムを作っていたのだと思わせる。最近本作のサラウンド・ミックスを収めたSACDが出たので、聴ける環境にある人は聴き比べると面白いだろう。あまりに違うので驚くはずである。

以上2つは60~70年代の録音。今から40年以上前の演奏だ。それに対してオウガ・ユー・アスホールの『ハンドルを放す前に』はピカピカの最新録音。バンドがエンジニアの中村宗一郎と共にアナログ機材を駆使して、マンツーマンでたっぷりと時間かけて作り上げた録音芸術の粋である。音のない隙間を効果的に生かし、音の鳴りと響きを重視して、奥行きと幅のある立体的な音響として圧倒的な完成度の高さだ。CDに比べると低域の伸びと音像の奥行きの深さが違う印象。隅々までアーティストの意思が行き渡っていて、無駄な音が一個もない。AORやシティ・ポップスにも通じるソフト&メロウな音楽性なのに、怖いほどの密度の高さとヒリヒリするような緊張感。歌や演奏や歌詞やメロディだけでははかれない総合録音芸術であり、これこそが2016年の音楽である。

そして女性ジャズ・シンガーKOKIAの『Watching from Above Vol.1&2』。この選考で初めて耳にしたアーティストだったが、透明感のある美しい歌声と、品のある洗練されたアレンジと演奏がマッチして、とても聴きやすい。生音中心のアンサンブルを、エアヴォリュームのあるナチュラル・アンビエンスの効いたスタジオで録るという制作環境はハイレゾの特性=情報量の多さ、器の大きさがあってこそ、その真価を生かせる。クリアでS/Nが高く、レンジが広く分離もいい。かなりレベルの高い優秀録音で、これは誰が聴いても「音の良さ」を実感できるだろう。もちろん再生機器をおごればおごるほど、そのポテンシャルの大きさを発揮してくれるはずだ。観賞用としてだけでなく、オーディオマニアが機器のチェック用として使うにも最適ではないだろうか。これをパソコン付属のスピーカーやスマホのスピーカーで聴いては、まさしく宝の持ち腐れである。

以上4作品。音楽性も録音の時期も方向性もバラバラなので優劣はつけがたいが、ここは、「2016年の録音芸術」として必要にして十分な要素を無駄なく配置し、24bit/48kHzというフォーマットを存分に完璧に生かした構成力で見事な高みを示したオウガ・ユー・アスホールに、第3回ハイレゾ音源大賞を進呈したい。この異様なまでに完成度の高い音源を、ライヴでどう展開するのか。楽しみだ。

■今回選出に使用したリスング環境■
PC : Mac Mini Late 2014

DDC : iFi Audio iLINK USB

ilink20-20front-1
http://ifi-audio.jp/ilink.html

DAC : SOULNOTE sd2.0
sd20b_c_web
http://www.kcsr.co.jp/decoder.html

Pre Amp : LINN KLIMAX KONTROL

Power Amp : LINN KLOUT

Speaker : FUNDAMENTAL SM10Z

sm10z
http://www.fundamental.jp/product.html#10

プロフィール

小野島大

音楽評論家。内外のロックなどポップ・ミュージックを中心に各メディアに執筆。著編書に『音楽配信はどこへ向かう?』(インプレス)、フィッシュマンズ全書』(小学館)『Disc Guide Series UK New Wave』(シンコーミュージック)等多数。オーディオに関する執筆も多い。