2017年1月度最優秀ハイレゾ音源大賞作品

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『Live at Art d’Lugoff’s Top of the Gate(24bit/96kHz, 192kHz DSD2.8MHz, 5.6MHz)』
Bill Evans

配信日

2017年1月6日

配信ページ

http://www.e-onkyo.com/music/album/2xhd1052/

いとうせいこう

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2017年1月各社ハイレゾ推薦作品

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ぼくのりりっくのぼうよみ

弱冠18才にして日本の音楽シーンに一石を投じる新たな才能の登場として注目を集める“ぼくのりりっくのぼうよみ”のニューアルバム。デビュー1年目とは思えない高い完成度の作品に仕上がっています。

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──初めてハイレゾ音源をお聴きになってみていかがでしたか?

いとう : 楽器の粒立ちが違いますね。いわゆる音像がすごくよく見えるというか、聴こえる。もちろんミキサーがうまくとけ合わせてひとつの世界観にしているんだけど、その上でなお、各楽器の音がすごく感じられる。ハイレゾって圧倒的に音質がいいわけですけど、オーディオとして聴くというよりバーチャルリアリティ(以下、VR)の分野なんじゃないのかなと思っていて。

──VRですか。

いとう : 映画の4Dじゃないけど、「聴く」ということが根源的に変わって、映像や振動が音とシンクロしていくのかもなって。僕は音質そのものより、そこに何か新しい体験があるもののほうが好きなので、VRの角度から聴くことによって新しい聴き方ができるはずだと思っているんです。過去にその体験をもたらしたのがウォークマンだったと思うんですよね。街中で聴いたときはびっくりしたもん。なんだこりゃって、街の見え方が変わったわけです。もはやすっかり慣れて皆その衝撃を忘れちゃったと思うんだけど、ハイレゾはもう一度その驚きをもたらす契機になり得るかなと思いましたね。

──なるほど。面白いですね。

いとう : 何を追体験してもらうかを考えることで、ミュージシャンももう一度自分たちの音楽の根源に立ち戻ると思うんです。僕はヒップホップの出だし、結局そいつに言いたいことがどうあるのか、今どういうテンションでブチ上がっているのかってことが一番大事だし、もちろん自分がプレイするときもすごく大事に思ってるんですよね。何年か前に恵比寿の電子音楽のフェスのトリでセッションをしたんです。ヤン富田さんのグループで、小山田くんがギターで、大野由美子さんがバイオリンだったかな。他にも結構すごい人たちが集まってたんですけど、始まる前にヤンさんから指示があるってことで、皆楽屋に集まって。そしたら「相手の出す音をよく聴いて音を出して。以上」って言うんだよね。もうね、本当にそれしかないんですよ。それをどうお客に聴いてもらうかっていうのがライブの要件で。それを音源化する場合も、聴いた人の中に何が動くのかってことに思い至るのがやっぱりいい音楽だと思うんです。ハイレゾの場合は、音の粒立ちがいいことを利用して何を体験してもらうのか、ということがより問われていますよね。だから今回のノミネート作品にもあったけど、ジャズのライブ盤はずるいですよ。過去のものを体験できる喜びが予めわかっているから。

──ビル・エヴァンス『Live at Art d’Lugoff’s Top of the Gate』ですね。

いとう : これが一番「場」の音がするというか、ステージにいるって思ってしまうくらいノイズがよく聴こえますよね。音源に関してはノイズを消すのがいい音だとされてきたけど、これを聴いているとそうじゃないよなって。演奏の音だけじゃなくて、グラスがカチンと鳴る音とか人のざわめきが聴こえるんだけど、ノイズをクリアに聴かせることでよりよく聴こえてきて、会場の位置関係が浮かんでくる。

──他の作品についても感想をお聴きしたいんですが、ぼくのりりっくのぼうよみ『Noah’s Ark』はいかがでしたか。

いとう : 彼は全部自分ひとりでやってるの?やっぱり、すごい人たちは常に出てくるもんでさ。この若さでヒップホップみたいなのやろうと思ったら、やっぱり荒々しいほうにいくんだよね。それはヒップホップシーンの悪いところでもあるかもしれないけども、「お前リアルじゃねえな」とかってことになっちゃう。だけどこんなキラキラした音を作れるんだなって。若いのに小憎らしいほどポップサウンドがわかってるというか、MIKAみたいな感じがありますよね。煌びやかなチューンに皮肉が利いた歌詞が乗ってて。

──続いてSuchmos『THE KIDS』。

いとう : ハイレゾで聴くと、ヨンスの歌声のハスキーさが際立ちますよね。粒が綺麗に揃ってて、あいつの声がホワイトノイズみたいな散り方をしててびっくりした。いやあ、いいわ。あんな声が生まれてくれて神様ありがとうって思いましたよ(笑)。またその声の散り方に一番合うところでベースが動いてたりしていて。もともと好きだったけど、今後どうなるのか気になりますよね。僕追うのが好きだから、これ年取ったらどうなっていくんだろうなって。基本的に歌舞伎の役者でも人形浄瑠璃の太夫でも、「これきっと70、80のときすごいぞ」と思ってついていくわけ。日本だとあまりミュージシャンの70、80のこととか考えないでしょ。Suchmosには70、80くらいまでやってほしいし、そのときのヨンスの声を俺は聴きたい。ものすごい説得力になるよ。古典芸能の人たちも毎日お稽古して「40、50はハナタレ小僧」って言われてるんだから。それ以前だもんね。それでいてこの声、このサウンドを作れる仲間たちがいるっていうのは強い。

──BRADIO『FREEDOM』。

いとう : 知らなかったなあ。いいファンクバンドですよね。力強さとか荒々しさも含めてまとめてる。耳触りがいいわけじゃないから通向けの感じもしましたけど、僕はこういうブリブリしてるの好きですから面白かった。ライブを観たいと思わされるタイプのバンドですよね。こういうバンドだと、録音するときのマイクの位置ひとつで印象が変わるでしょうね。

──マイクの位置ですか?

いとう : この間細野さんが、40年代だかのマイクの位置がどうしてもわからないんだ、みたいなことを真剣に言ってたんですよ。どうしてもその音を出したくていろいろ試してみるんだけど、何かマジックがあって解けないと。もちろんこれってハイレゾがなかった時代の録音の話じゃないですか。そう考えるとまだまだできることがあるというか、ハイレゾだからこそ置くべきマイクの位置とか、そういうものがたくさんあると思うんですよね。

──最後はGLAY『REVIEW〜BEST OF GLAY〜』です。

いとう : 各人の音の位置が圧倒的に計算し尽くされてますよね。ボーカルの聴こえやすさは抜群なのに、丸い音といえば丸い音にも聴こえるし、すごく激しいと言われればそうも聴こえる。サウンドエンジニアとは何かってことがわかるし、より多くの人、より多くの嗜好性に向けて音を作るっていうのはこういうことなんだって思います。並べて聴くとBRADIOとかSuchmosはまた別のマーケットに向けての音作りだってことがよくわかりますよね。

ハイレゾって圧倒的に音質がいいわけですけど、オーディオとして聴くというよりバーチャルリアリティの分野なんじゃないのかなと

いとう : さっきのVRという意味で出すんだったらアリですよね。やっぱり根源的に人間が持っているもの、余計なものを足さないことで生まれる感動ってあるわけですよ。ライブとかバトルの名勝負とか、その時のラッパーの感情やお客の熱量が全部合わさってるときって、何かわからないけどジーンとくるものがある。だからもちろん音源でもいいんだけど、やっぱり1DJ・1MCが一発勝負でひとつの曲を作る、できたらお客もいるってものだったらハイレゾで出す意味があるというか、ハイレゾでしか出せない何かができるんじゃないのかなと思います。今、カメラと一緒になって録れるようなハイレゾ録音機器ってあるの?

──ないですね。録音のマイクで別に録るしかないです。

いとう : ハイレゾを含んだオーディオビジュアルが今後1〜2年のうちにやってくるんじゃないですかね。ヨーロッパとかアメリカがどのくらいまでやってるかわからないけども、そっちの方面でやってくるんじゃないのかな。ステージ上、客席、俯瞰、と位置ごとに鮮明な音や画が録られていて、自分の選び方次第で体感する音や映像が変わる。この位置で録った音を聴いたら自分が真ん中にいる気持ちになるとか、フェーダーを右に振ったら自分の位置も変わるみたいな。でも全体としては映画のように観れる。そういうものが出てきたらいいなと思いますね。マイケル・ジャクソンが生きてたら今年くらいには、いや、きっと去年くらいにはやってますよ(笑)。

(Interview by 飯田仁一郎 / Photo by 大橋祐希)

■今回、いとうせいこうが選出に使用したリスング環境■

デジタル・オーディオ・プレイヤー
ONKYO DP-X1A

http://www.jp.onkyo.com/audiovisual/headphone/dpx1a/

ヘッドフォン

Pioneer SE-MHR5

http://pioneer-headphones.com/japanese/premiumsound/se-mhr5.html

プロフィール

いとうせいこう

作家・クリエーター。1961年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。音楽活動においては日本にヒップホップカルチャーを広く知らしめ、日本語ラップの先駆者の一人である。アルバム『建設的』(1986年)にてCDデビュー。その後『MESS/AGE』(1989年)、アルバム『OLEDESM』(1992年)、『カザアナ』(2008年)などをリリース。また他アーティストへの作詞提供曲として、やや『夜霧のハウスマヌカン』、大竹まこと『俺の背中に火をつけろ!』、ももいろクローバーZ『5 The POWER』など多数。近年ではロロロへの加入や、レキシでの活動、DUBFORCEへの加入などがある。著書に小説『ノーライフキング』エッセイ集『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)『想像ラジオ』(第35回野間文芸新人賞受賞)『存在しない小説』『鼻に挟み撃ち 他三編』『我々の恋愛』など。執筆活動を続ける一方で、宮沢章夫、竹中直人、シティボーイズらと数多くの舞台をこなす。みうらじゅんとは共作『見仏記』で新たな仏像の鑑賞を発信し、武道館を超満員にするほどの大人気イベント『ザ・スライドショー』をプロデュースする。テレビのレギュラー出演に「ビットワールド」(Eテレ)「オトナの!」(TBS)「せいこうの歴史再考」(BS12)「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日)などがある。「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務め、浅草、上野を拠点に今年で9回目を迎える。

http://www.cubeinc.co.jp/ito/