柏井万作 (CINRA.NET編集長)

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2017年6月各社ハイレゾ推薦作品

プロが現場でレコーディングしている音を、劣化させずそのまま聴きたいじゃないですか?

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──では1作品ずつ感想を聞かせてください。まずは土岐麻子『HIGHLIGHT – The Very Best of Toki Asako –(96.0kHz/24bit)』です。

柏井万作(以下・柏井) : 土岐さんは、昔から音のクオリティがめちゃくちゃ高いですよね。バックグラウンドにジャズがあるのも理由だと思いますが、この音源を聴いても、一つひとつの音の存在感がしっかりしてると思いました。土岐さんは常にそこをサボらない人だなという印象がありますね。Cymbalsからソロになって、最近はシティポップ感が強いですけど、個人的に僕はフリーソウルとか、渋谷系の時代に流行ったブラック・ミュージックから音楽体験が始まっているので、土岐さんのあの感じはジャストミートなんです(笑)。今回は、そんな土岐さんのソロをまとめたハイライト集なんですよね。だからめちゃんこ聴き応えありましたね。

──では続いてSuchmos『THE BAY (24bit/48kHz)』です。

柏井 : 今回改めてデビュー時期の音源を聴きましたけど、やっぱりレベルが高いですよね。まだお金をかけてレコーディングをするのが難しい時期だったと思うんですけど、細部まで色んなものに対するこだわりが強いのがよくわかります。例えばエンジニアとか各楽器の演奏やアレンジなど、それぞれプロフェッショナルに積み重ねてきているなって。音楽的にも大好きだし、YONCE君がすごくセクシーでカリスマ性を持ってるっていうところも当然魅力なんですけど、その背景にはちゃんとクオリティを積み重ねているな、というのをハイレゾで聴いてみて改めて感じました。やっぱりそういうことがあってこそ評価されているんだろうなって思います。

──では、原田知世『音楽と私 (2017 Recordings)(24bit/96kHz)』についてお願いします。

柏井 : 原田さんは35周年ということで、僕が生まれた頃からやってらっしゃる方ですけど、小さい頃の印象もあって最初は歌謡曲の人なのかなって思っていたんです。でも7、8年くらい前にpupaで高橋幸宏さんたちとか、伊藤ゴローさんとやっているところから改めて聴かせていただいて、めっちゃ良いなと思いました。90年代にはトーレ・ヨハンソンと作っていたり、常に音楽的な面白さを追求した、なおかつポップスとして素晴らしい出来栄えの作品を作っていらっしゃって、聞き応えがありますよね。あと、歌とか存在としての透明感をいつも感じるなあ。

──次はその伊藤ゴローさんの、伊藤ゴロー アンサンブル『アーキテクト・ジョビン(24bit/96kHz)』です。

柏井 : いやあもう、最高ですよね。伊藤ゴローさんの音楽はすごく好きで、自分でもよく買ってます。今回は、アントニオ・カルロス・ジョビンの企画ものですけど、ジョビンの音楽ってもちろんボサノヴァだけど、改めて聴いてみると現代音楽とかクラシカルなものがベースにあったんですね。(モーリス・)ラヴェルとか(エリック・)サティ、(クロード・アシル・)ドビュッシーとか、今の若いミュージシャンがフェイバリットに挙げるような現代音楽家のことをジョビンも好きで、それを伊藤ゴローさんが解釈してクラシカルかつ今っぽくまとめていらっしゃって、素晴らしいアルバムでした。音も最高で、良い意味でハイファイすぎずに作っていて。今ってオーケストラのクラシックの音源をハイレゾで買ったりすると、たまに音の分離が良すぎて聴きづらいときがあって。このアルバムはアレンジが素晴らしくて、楽器アンサンブルの構築され方が美しいんですけど、それが1つの音楽としてにまとまって聴こえてきて、さすがだなって思いました。僕は兄がプロのエンジニアをしている影響もあって音が良いものを聴くのが好きで。特にインストの音楽って歌がない分、それぞれの楽器の存在感が立ってこないと良いアルバムにならないと思うし、そういう意味ではこういうインストのアルバムを良い環境で聴くというのはすごく好きなんです。ゴローさんみたいに音の隙間を大切にしている音楽とかを、家でまった〜りしながらよく聴いてます(笑)。

──続いてLOVE PSYCHEDELICO『LOVE YOUR LOVE(24bit/48kHz)』。

柏井 : このアルバム、めっちゃ良かったです。LOVE PSYCHEDELICOが売れたときが僕の中高生時代で、わりと売れてる人っていうイメージも強かったし、めっちゃ良いなというのはよくわかっていたんですけど、今回のアルバムを聴かせていただいて、今改めてこういう音楽を聴きたいなって思えたというか。

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──へえ〜! それは何故ですか?

柏井 : 今、世の中的にも竿物の音楽(※ギターやベースを中心とした音楽の意)が売れなくなってきていて、実際面白いものもブラック・ミュージックの要素のあるものが増えているし、そういう中でこういう、しっかりバンドアンサンブルが生きていて尚且つロックのグルーヴとかR&Bの感じがちゃんとある音楽って、そんなに矢面に立たなくなってきた感じがあるじゃないですか? そんな中でLOVE PSYCHEDELICOがブレずにこういうアルバムをバシッと作ってくれるのはすごく良いなって。しかも今日ここで聴いて思いましたけど、ミックスとか音の配置のこだわりとか、歌のダブリングの使い方とか、プロダクションの部分のこだわりもすごく感じて。曲も歌もバンドも最高で、ここで聴いてさらに好きになりましたね。

──最後は宇多田ヒカル『大空で抱きしめて(24bit/96kHz)』です。

柏井 : 僕が言うまでもないですが、宇多田さんはやっぱり素晴らしい。この曲はエンディングがとにかくすごいですよね。オケも含めてエンディングにめっちゃ感動しました。そこに結構重要なポイントもあるような気がしたから、序盤はあえて淡々とした音作りをしているんだなと思っていて。聴き始めたときは、ライトでかなり淡々とした感じだなと思ったんですけど、歌詞を聴きながらエンディングに向かっていくこの高揚感と恐ろしさ。「どこに連れて行かれるんだろう?」って音楽に巻き込まれていく感じが、やっぱりすごいなって思いました。派手さはなくても、歌と歌詞を軸にストーリーが進んでいって、エンディングのダイナミクスに感動する、すごく音楽的な喜びがある。こういうポップスの作り方ができるのは、やっぱり別格ですね。

──では、この中から7月度のハイレゾ音源大賞を選んでください!

柏井 : LOVE PSYCHEDELICOととても悩んだんですけど、ゴローさんにします!(e-onkyo music推薦作品の伊藤ゴロー アンサンブル『アーキテクト・ジョビン(24bit/96kHz)』)

──選出した一番の決め手はどこでしたか?

柏井 : 音楽のアンサンブルの組み立て方とかダイナミズムとか構築のされ方がとにかく聴いていて面白かったし、色んな楽器がどんどん主役になっていくから聴いていて飽きないというのもありました。音の響きとか余韻の美しさをすごく感じたし、ドビュッシーとかサティみたいな和音の特別な響きの美しさがとにかく気持ちよかったです。こういう音楽をCINRA的には色んな人にもっと聴いてもらいたいなと思いました。

──ところで柏井さんは普段は家でどんな環境で聴いているんですか?

柏井 : 自分の部屋では、YAMAHAのDSDに対応しているアンプをMusikelectronicのスピーカーにつないで聴いてます。レコードと、あとはだいたいPCからUSBでそのアンプにつないでそのままハイレゾか、ストリーミングを聴くことが多いですね。ヘッドフォンではあまり聴かなくて、やっぱりスピーカーの方が好きです。音楽ってフィジカルで感じるものがあると思うんですよ。音が鳴っていて低音がちゃんと体に響いてくる、体が鳴ってる感じが、どうしてもヘッドフォンだと感じられないので、スピーカーで聴きたいなと思いますね。

──ハイレゾに関しては、どのように考えていますか?

柏井 : 結構買うんですよ。プロが現場でレコーディングしている音を、劣化させずそのまま聴きたいじゃないですか? 今のアーティストはみんな基本的にデジタル高音質で録っていると思うので、そういう鮮度の高い状態のまま聴けるというのは、音楽リスナーとして至福ですよね。そういうものが一般のリスナーに届くことって重要だと思うし、作り手側もより良い音で届けたいと思っているはずなので。

──とはいえ、CDがあってアナログがあってハイレゾ配信があってストリーミングがあってと色んな聴き方があるわけですけど、柏井さんとしてはどのメディアを一番使っているんですか?

柏井 : キュレーターをやっているということもあって、基本はストリーミングが多くて、Apple MUSICとかSpotifyで良い音楽を探したり。旧譜を聴けるのも凄く楽しくて。なかなか自分で買わなかったクラシックとか古いジャズの音源を掘ったりして、「なにこれ、最高!」っていうものを、ハイレゾで買うかレコードで買うか、どちらにするかはいまだに悩んでますね。解像度高めで聴きたいと思うとハイレゾで買っちゃうかなあ。まったり音のふくよかさを楽しみたいものはアナログで買うことが多いし。あと、洋楽の新譜はだいたいレコードで買ってますね。それでレコードで満足できないものはハイレゾで買うこともあります。

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──柏井さんのような聴き方がスタンダードになっていくんですかね? どう思いますか。

柏井 : いやあ、ならないんじゃないですかね(笑)。たぶん、今はみんなストリーミングで満足していると思うし。だから、ストリーミングの音がもっと良くなってくれたらいいなと思います。それは環境とかインフラの問題なので、いずれストリーミングでハイレゾが聴ける時代も来るだろうし、そうなったらリスナーとしては、こんなに幸せなことはないなって思いますけど。後はビジネスとして、それが音楽業界とかアーティストに還元されるのかどうか。そこさえ整えば、音楽がこんなに手軽にみんなで聴けることほど良いことはないなと思います。

──ストリーミングで今2つ課題に挙げてもらった、音の部分とビジネスの部分についてですが、音の部分は時代が進めば解決していくかと思いますけど、ビジネスの部分、ストリーミングでのアーティストへの還元ということに関しては、音楽業界に関わっている柏井さんから見て突破口はあると思いますか?

柏井 : ユーザーが増えて、みんながそこにちゃんと1,000円とか2,000円払う時代がくればもちろん還元されると思うんですけど、いずれにしても90年代みたいな原盤で儲けるビジネスモデルはある程度変わっていくと思います。この10年くらい、インターネットとかITが出てきてから、ソーシャルとかを含めてネット上でのコミュニケーションって重要だったと思うんですけど、今はリアルに体験することをユーザーが求めている気がするし、その価値が高くなってる。だから、音楽をマネタイズする場所がそっちの方向にシフトチェンジしていくのは、時代の流れ的にある程度しょうがないのかなっていう気がします。まあでも音源がなくなるっていうことは絶対にないと思うので、そこのビジネスモデルはもうちょっと整っていくんじゃないかと思いますけどね。例えばクラウドファンディングとか、日本だとあんまり良いイメージを持たれていないかもしれないですけど、カルチャーの歴史を紐解けば、良い作品を作っている人にパトロンがついて支援していく文化もあるわけで、そういうことが、音楽も時代に合わせてうまくできていければなって。ある種アイドルとかは、それがちゃんとできているんでしょうね。

──その辺が課題ですよね。

柏井 : 今は企業がネットや動画で音楽やミュージシャンを使ったプロモーションしようとか、そういう音楽の使われ方も増えているし、リスナーからお金をもらう以外の新しい可能性も出てきていますよね。あとゴローさんみたいにクオリティが高くて品格のある方は、2,000円のCDを1
枚売るより、10,000円のCDを2000枚売る方がやりやすいかもしれない。実はそういう、音楽の「値付け」の問題もあるかもしれないですね。それは最近よく思うなあ。

──「値付け」ですか?

柏井 : 製品として出荷流通するために固定の価格を設定する必要があったのはもう昔の話で、ライブのチケットみたいに、音源だってそのアーティストなりの値段設定があってもいいのかもしれない。あと、これだけ便利な時代になったんだから、ユーザーが値段を付けてもいいかもしれないですよね。今はC to Cで、一般の人同士で物を売り買いする時代だし、その値付けも人次第になっていると思うので。誰でもストリーミングで聴けるようにはなってるけど、レコードは1000枚限定発売で入札制にしたら、それこそ伊藤ゴローさんとか、余裕で1万円入札されそう。そういう仕組みがあれば、高い入札が集まるような製品作りをするアイデアも増えそうですよね。

──メディアも変遷があると思うんですけど、そんな中でCINRA.NETとしてはどんなメディアになりたいですか?

柏井 : 本質的なところは変わらず、色んなカルチャーの面白さを、まだ知らない人にどんどん届けていきたいというのがあって、だから音楽だけじゃなくて、アートとか映画とか幅広くやっているんですよね。で、CINRA.NETをちょうど10年くらいやってきて、ネットメディアとしては少し形ができてきたので、これからはイベントを増やしていきたいです。やっぱりカルチャーが生まれる場所って、ネット上というよりはリアルな場だと思うので、そろそろそういう場を、メディアとして作っていきたい。8月には野音で入場無料の「exPoP!!!!!
っていうイベントの100回目をやりながら、同じ日比谷公園の広場を借りて、「NEWTOWN」っていう文化祭のようなイベントをやろうと思っていて。そこにはフードカーが十何台来てくれたり、「INDEPENDENT LABEL MARKET」っていう、国内外のレーベルが出品する音楽市の日本初上陸をやろうとしています。野音で無料のライブが見れてカルチャーマーケットがあって、食も楽しめて、新しいカルチャーに触れるきっかけ作りをしていきたいなと。そうやって、リアルな体験として実際にカルチャー感じてもらえるような場所やことを作っていくというのを、次の10年の目標にしていきたいですね。

Interview / 飯田仁一郎
Photo / 大橋祐希

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プロフィール

柏井万作(かしわいまんさく)

1981年、東京都生まれ。2006年に取締役として株式会社CINRA立ち上げに参加。創業時から現在までカルチャー情報サイト『CINRA.NET』の編集長としてサイトの運営を行っている。カルチャーECサイト『CINRA.STORE』や入場無料の音楽イベント『exPoP!!!!!』、カルチャーフェス『NEWTOWN』などの立ち上げ&運営責任者を務める。

CINRA.NET
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