矢野沙織 (アルトサックス・プレイヤー)

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2017年9月各社ハイレゾ推薦作品

惜しくも2016年に逝去したシンガーソングライター、レオン・ラッセルによるラスト・レコーディング。

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ハイレゾによって楽しさ、エンターテイメント性が前に出てくる

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──矢野さんは、ハイレゾ音源を聴くことはありますか?

矢野沙織(以下・矢野) : じつはハイレゾについては詳しく知らなかったんですけど、XperiaのCMに起用して頂いたことをきっかけに、自分もハイレゾ配信音源を録音したので、そこから自分でも勉強しつつ聴くようになりました。

──実際に初めてXperiaでハイレゾ音源を聴いたときはどう感じましたか?

矢野 : 全然違う感じでしたね。特に古い音源とかを聴くと。聴きやすくなっているかなって。例えば昔のチャーリー・パーカーの音源とか、1940年代のジャズとか。初めて聴いた人にとっては、1940年代の音ってマイク1本で録ってたりするのでどうしても聴きにくいので、それがすごく良い意味でフラットで、奥行きも出ていて、聴きやすくなっているなって思いました。

──普段、矢野さんはどういう視聴環境で音楽を聴いているのでしょうか。

矢野 : 私はじつはあんまりこだわりがなくて。ハイレゾに出会うまではiPodの一番小さいやつで聴いていて、家ではステレオでっていう環境はなかったんです。1人暮らしも長かったですし、なかなかステレオを置ける環境ではなかったので。

──Xperiaのハイレゾを聴くまでは、音質にはそんなにこだわったことはなかった?

矢野 : こだわらないように気を付けていた時期があって。ソニーの10年位前の、騒音遮断ボタンがついたヘッドフォンとかにこだわりだしちゃって、そうすると、それを外して歩けなくなっちゃって。音がすごく好きなんですけど、騒音が嫌いなんですよ。でもそうすると社会との乖離が生じてしまって(笑)。家の中でもこうなってきたらこれはいかんな、と思って、あえてちょっと離れた時期がありました。

──これはいかんな、と思ったというのは自分が音楽を作る上で、どんどん普通のお客さんと離れちゃうということですか?

矢野 : そうです。モニターの音とか、サウンドチェックがめちゃくちゃ長くなっちゃったりとか、でももうこれ以上どうにもならないというところも嫌になっちゃうという可能性もなんとなく感じたので。「どんな環境でもできるよ」っていう人の話を聞いて、1回止めようと思ったんです。

──ちなみに、普段はどんな音楽を聴くのでしょうか。

矢野 : ジャズももちろん聴きますけど、生活の中ではジャズはあんまりヘビーローテーションでは聴いていなくて。ずっと好きなのはジョージ・クリントンとかですね。でも、ファンクが好きなわけじゃなくて、ただただジョージ・クリントンが好きなんですよ。新譜もすごく良くて。聴いてない時間が苦痛っていうくらい好きなんですよ(笑)。色んなジャンルを詳しいわけではないんですけど、あとはサルサとかを聴きますね。

──音楽自体はどうやって聴いてますか? 今はストリーミングも出てきていますけど。

矢野 : Xperiaにしてからはハイレゾ音源を購入して聴いています。それまでは、CDを買って、それをiPodに入れて聴いていました。もともと持っているジャズのコレクションをパソコンに入れたりして。CDウォークマンも持ってて、結構聴いている事もありました。

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──なるほど。ではここからは9月のノミネート作品を聴いてみましょう。ではGLIM SPANKY『BIZARRE CARNIVAL(24bit/96kHz)』からお願いします。

矢野 : すごくキリッとした良い声だなと思ったんですけど、良くも悪くも何かに突出した感じは受けなかったというか、所謂王道っぽい編成、曲作りなんですけど、恐らく普通のポップスを聴いている子たちも聴けるんじゃないかなっていう印象を受けました。押しつけがましくないっていうか、でも声はキリッとしていてっていうのがバランスが素晴らしいなって思いました。

──次は崎谷健次郎『SIGNS(24bit/96kHz)』です。

矢野 : 歌の方の音源っていう感じがすごくしました。この前ハイレゾの録音をしたときに、ホーンセクションからすると、そんなに圧縮しなくても良いのになって思ったんですけど、歌の人のアルバムになると(楽器が)「ギュッ」としていてボーカルがポンッて出来た方がきっと聴きやすいんだろうなって。スッと入ってくる感じはありますよね。楽器をコンプレッサーで「ギュッギュッ」ってしている感じというか。たぶん、長時間聴いても疲れない感じがあるんじゃないかなっていう気がします。

──ではカーネーション『Suburban Baroque(24bit/96kHz)』です。

矢野 : バンドをやっている方はみなさんバックバンドの楽器が好きだと思うんですけど、楽器に対する好き度がちょっと違うから、ストリングスもよりガリっと録るようにされていたりとか。他の音源はタムの音も整い過ぎな気がするんですよ。だけどバンドの音が好きな方の音源って聴いていてすごく嬉しくなるっていうか。きっとこだわって録ったんだろうなっていう気がしました。

──次はShogo Hamada & The J.S. Inspirations『The Moonlight Cats Radio Show Vol. 1(24bit/96kHz)』です。

矢野 : 崎谷さんのアルバムの好みとかなり近くて、ホーンが圧縮されている感じとかが、歌の方のアルバムという感じがして。悪い言い方に聴こえるかもしれないですけど、ストリングスを含めて、通り一遍に整っているものがあると思いました。ヘッドフォンで聴いたときに「Mercy, Mercy, Mercy」を聴いたんですけど、ずーっと1本通ったものに四方を囲まれているのに、ポンッと声が乗ってくるっていう録音の仕方が好みが別れるかなという気がしました。

──続いて、LEON RUSSELL『ラスト・レコーディング〜彼方の岸辺で』です。

矢野 : 生音もオーケストラとなるとここまでになるんだっていう感じで、何も言うことはないっていうくらいすごいなって。これ、フルオーケストラですよね。ストリングスを入れたらちょっと細くなるんじゃないかとか、ホーンを入れると圧縮されるんじゃないかって私も言ってきたんですけど、このクラスを聴くとやっぱりすごいんだなって。聴きにくいところも録れてると思うんですよね。歌が引っ込んじゃうブレスのタイミングとかも前にでるようになっているし。こういうあまりにも壮大で偉大な音源を聴くときって、もともと聴いてない人は、若い人の声じゃないなっていうだけでちょっと重たく感じる人が多いと思うんですけど、そういうのは解消されて先入観なく聴けるんじゃないでしょうか。それはハイレゾの良いところだなって思います。

──では次はRHYMESTER『ダンサブル(24bit/96kHz)』。

矢野 : ハイレゾだからこその面白さが上手く出すぎてるというか。すごく楽しみ方を与えてくれる人たちだと思うのでもともと大ファンなんですけど、今回のアルバムでも録音状況をいかんなく発揮してくれていて、たぶんず〜っと聴いちゃうし、楽しいんですよね。楽しむ余白というのもこっちにあえて与えてくれているのもすごくわかるアルバムだなって思いました。あと、私がすごく好きな椎名林檎さんの『無罪モラトリアム』のジャケットを手掛けた木村豊(Central67)さんがこのアルバムのアートディレクションを担当していて。そういうすごさも押しつけがましくなく、「楽しませてあげよう」っていうのをお兄さんたちが思っているというのが(笑)よく伝わってくるアルバムでした。ホーンの感じも、ハイレゾで聴く場合こういう楽しいブラスの感じが好きですね。

──最後は『初音ミク Sings “手塚治虫と冨田勲の音楽を生演奏で (24bit/96kHz)』佐藤允彦 meets 初音ミクと歌う仲間たち(w/重音テト)です。

矢野 : なんか、すごすぎちゃうとうか。佐藤さんも、パーカッションの岡部さんも、一緒にやったこともあるんですけど、ひょっこり来てひょっこり帰るのがあの方たちの特徴で。ひょこっと来て空気だけよいしょって作ってくれて、「それじゃっ!」って帰っていかれて、残された人たちはその空間に浸りっきりっていう特徴があるんですけど(笑)。それがまたこのアルバムでも出ているのがよくわかって。手塚治虫さんと初音ミクっていう、日本の新旧の視覚で楽しむものとプラス聴覚で冨田さんもっていう、結構な題材だと思うんですけど、ジャズの人たちはこんなに力を抜いてやるんだなっていう(笑)。これは独特ですよね。日本の人しかできないだろうなって。例えば「リボンの騎士」とか「ジャングル大帝」の曲とかが知らない曲で、なおかつやっている人がジャズミュージシャンで音源も全然ポップに寄ってくれなくてゴリゴリにジャズをやっているのに、こんなに聴けちゃうっていうのは、やっぱりハイレゾによって楽しさ、エンターテイメント性が前に出てくるからだと思うんですよね。これだったらアルバム1枚終わるまでじっくり聴ける人もすごく多いんじゃないかなって思います。良い意味で、日本のすごくヤバい部分というか。マニアックである意味でオタクな部分を平気で出しちゃっても、「こんなに楽しいんだ!?」っていうアルバムでした。

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──ありがとうございました。では、この中から2017年9月度のハイレゾ音源大賞を選んでください!

矢野 : すごく迷うんですけど、やっぱり『初音ミク Sings “手塚治虫と冨田勲の音楽を生演奏で (24bit/96kHz)』佐藤允彦 meets 初音ミクと歌う仲間たち(w/重音テト)ですね。

──改めて、この作品を選んだ理由を教えてもらえますか?

矢野 : 誰も我慢していない感じというか。コンセプトがすごくあるのに、参加している人が、初音ミクちゃんを含めて誰も寄せていないのに、一直線に同じ方向を向いているところがすごいなって。私もどんどんこれから見習わなくちゃいけないところなんだろうなって思います。

──コメントを聴いている限り、佐藤允彦 meets 初音ミクと歌う仲間たち(w/重音テト)にしろRHYMESTERにしろ、「余裕」とか「隙間」というのが矢野さんにとってのキーワードなんですね。

矢野 : そうですね、なかなか自分にはないことなので(笑)。どうしても自分がやりたい曲については考えてしまいがちなんですけど。ハイレゾ環境ってコンセプトが出やすいと思うんですよ。そうすると、作ってくれた人たちの感じっていうのは良く伝わると思うんです。普段、私も作る側なんですけど、ハイレゾ大賞は自分にとって「あ、これは自分にはできなかったな」っていうのが、浮き彫りになった企画だったと思います。ありがとうございました。

──最後に、ハイレゾの分野に期待することってありますか?

矢野 : 好みだとは思いますし、ハイレゾのコンセプトからはズレちゃうかもしれないんですけど、ブラス・アンサンブルの「ガリッゴリゴリッ」っていうセッションの部分、生音を聴いているような雑な部分も全部録れちゃうような、「もう修正できないよ」っていうような環境にどんどんなっていくような方向にもなったらいいなって思います。

インタヴュー / 飯田仁一郎
Photo / 大橋祐希

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プロフィール

矢野沙織

アルトサックス奏者。
’86 年東京出身。9 歳のときブラスバンドでアルト・サックスを始める。 チャーリー・パーカーに衝撃を受けジャズに傾倒。 14 歳でビリー・ホリデイの自叙伝に感銘し、自らジャズクラブに出演交渉を行ってライブ活動をスタート。 名門SAVOY レーベル日本人第2 弾として’03 年、16 歳でセンセーショナルな デビューを飾る。モダン・ジャズの起源である” ビ・バップ” に真に取り組み、日本にとどまらずニューヨークでもライブを重ねる。 20 歳にして初のベストアルバムでは、第22 回日本ゴールドディスク大賞 ジャズ・アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞。 ’15年4月、通算11枚目のアルバム、「Bubble Bubble Bebop」をリリース。

矢野沙織オフィシャル・ページ
http://www.yanosaori.com//

矢野さんの演奏するXperia™のCM楽曲はこちら

http://www.sonymobile.co.jp/voices/music/